月面のカメレオン 1

はじまりはリオデジャネイロ

毎週水曜日はチジュカ国立公園で登山道の整備など、森林ボランティアをしていた。

その日はスケジュールを間違えたのか、いつもの集合場所に誰も来ず私一人だった。しばらくして待つのをやめ、数日前に教えてもらった滝にもう一度行くことにした。

その日の滝は、泳いでる人も涼んでる人も誰一人いなかった。

川の中のゴロゴロした大きな岩の一つを選び、座った。

何もせず時間が過ぎて行った。

ぼーっとしている内に目の焦点をぼやかす遊びが面白くなった。

自分を取り巻く周囲の景色が、葉っぱと木漏れ日の、緑だけでできた点描みたいな世界になった。

チラチラ光る点々に囲まれ、馴染んでいるうちに、その風景の中にカメレオンの形が見えはじめた。

あれはカメレオンだろうか?視界はボヤけたまま考えるが、やっぱりカメレオンに見える。

ふいに、中学時代にクラスメートが「カメレオンみたいやね」と私に言った言葉が耳の奥で再生された。

変化 – 変容 – 変幻自在

「なるべく、決めない」というキーワードが頭に浮かんだ

私はリオデジャネイロの活気とランドスケープに魅了され、そこを拠点にすることを考え、家探しを始めていた。けれど、今はまだ止まる時ではないと知った。

カメレオンはこの旅のシンボルになった。

滝の日の出来事の数日前、私はカリオカ(リオの地元民。「関西人」みたいな意味)に教えてもらった展覧会に行った。そこで見た陶芸作品に強く心を惹かれた。キャプションをメモして帰り、後で調べてみると、どうやらある地方にある谷の集落に作り手が集中しているようだった。私はそこを目指すことにした。

つづく

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