ある町にて。
ピアノの音色に誘われて、半開きになっていた扉からそっと中を覗いた。
暖かい空気と共にパンを焼く香ばしい匂いが漂ってきた。
昼食には遅く、夕食には早い時間だった。
薄暗い店内には二人の人影があった。一人はピアノを弾き、もう一人はピザの切れ端を手にグラスにワインを注いでいる。開店前だろうと思い、ドアを閉めようとすると――ピザをほおばる顔と目が合った。
店内は、入り口から扇状に短い三段の階段が広がっていた。フロアの中央、窓側にやや寄せてグランドピアノが置かれている。その周囲には大小様々なデザインの椅子やソファが、一見無造作でありながら完璧な位置に配置されていた。どの家具も何十年も使い込まれた顔をしている。
私はベルベットのシングルソファを選び、腰を下ろした。
目を閉じると、ピアノの旋律に合わせて、グランドピアノの雄牛が駆けて行く。

