ある町にて。
ピアノの音に誘われて、半開きになっていたドアからそっと中を覗いたら、ほわっと暖かい空気と共にパンを焼くいい匂いが漂ってきた。ランチには遅く、ディナーにはまだ早い時間。薄暗い店内には、休憩中の二人がいた。一人がピアノを弾き、もう一人がワインを飲みながらピザを食べていた。私に気づき手招きしてくれた。入り口から三段下がったフロアの真ん中辺りにグランドピアノがあり、その周りを素材も大きさも異なる様々な椅子が、無造作だけどそれぞれぴったりの場所に落ち着いていた。どの椅子も軽く三世代は面倒見てきたという顔をしていた。私は電車で見るようなベロア生地のソファに腰を下ろし目を閉じた。ピアノの旋律に合わせて、グランドピアノの雄牛が駆けて行く。

